「分かっているのに、やめられない」の正体
チームSKM 佐々木千博です。
先週、AI導入がうまくいく企業と
そうでない企業の違いは、技術力ではなく
「何をやめるか決められるかどうか」にある、
という話をしました。
分かってはいるのです。
今のやり方を続けていても、あまり意味がない。
でも、やめられない。
今回は、この「分かっているのに、やめられない」という現象を、
行動経済学の視点から少し掘り下げてみたいと思います。
1.サンクコスト効果 ― もう取り戻せないお金が、判断を狂わせる
まず紹介したいのが「サンクコスト効果(埋没費用効果)」です。
簡単に言うと「
人はそれに引きずられて、非合理な判断をしてしまう」
もっと平たくいうと「今更引き返せない!」
例えば、100万円かけて導入したシステムが、
実はあまり業務に合っていなかったとします。
本来、今後の判断材料になるのは「これから先、
使い続ける価値があるか」だけのはずです。
しかし多くの人は「せっかく100万円もかけたのだから」と、
使い続けることを選んでしまいます。
すでに払ったお金は、もう戻ってきません。
それなのに、まるで「使い続ければ元が取れる」
かのように錯覚してしまうのです。
研究者の方曰く、「無駄にしたと思われたくない」
という心理があると指摘しています。
合理性の問題というより、感情の問題なのですね。
例えば資格を取った。しかし資格は使っていない。
でも折角とったので、更新しないと損といったものも、
サンクコスト効果ですね。
私も身に覚えがありすぎます。
しかし、この効果を知ることで、全部とは言わないですが、
「やめること」がいくらか出来るようになりました。
2.損失回避 ― 手に入れる喜びより、失う痛みの方が大きい
二つ目は「損失回避」です。
心理学者ダニエル・カーネマンらが提唱した「プロスペクト理論」
の中核をなす概念で、人は「得ること」の喜びよりも
「同じ額を失うこと」の痛みを、心理的に大きく感じる、
これは、
「勝っている側」が守りに入るのは、まさにこの心理。
「もう1点取る喜び」よりも「今のリードを失う痛み」
の方が、脳にとっては大きく感じられるのです。
ビジネスでも同じことが起きます。
今ある売上、今ある取引先、今ある役割。
それを失うかもしれないという恐怖の方が、
新しいことに挑戦して得られるかもしれない利益よりも、
強く判断に影響してしまうのです。
マーケティングや顧客維持戦略としても、
サンクコスト効果や損失回避の性質は巧みに
使われています。
たとえば、顧客維持。学びのサブスク。
「サブスク入会中は、本編以外も過去の内容など
見れますよ。退会すると全部見れなくなりますよ」
これなどは、私がよく嵌まるパターンで、まだ見ていない
オマケに引っ張られて継続してます。どうせ、見ないのに…
まさに損失回避と、ここまで続けてきたのに…という
サンクコスト効果に嵌まってしまっているパターンです。
感情面なので完全になくすことは
難しいですが、知っていれば、自分の感情や決定を
客観視すれば影響を減じることはできます。
3.保有効果 ― 自分のものだと、価値が高く見える
三つ目は「保有効果」です。
経済学者リチャード・セイラーが1980年に命名した概念。
人は「自分が既に持っているもの」に対して、
実際の市場価値よりも高い価値を感じてしまう、というもの。
手放すときに感じる痛みの方が、
手に入れるときの喜びよりも大きい、
という損失回避とも深くつながっています。
自社が長年続けてきた業務のやり方、
これらは、外から見れば「今どき非効率だな」
当事者にとっては「自分たちが作り上げてきたもの」として、
実際以上に価値が高く感じられてしまいます。
だからこそ、「やめる」という判断は、
単に効率の問題ではなく、
「自分の一部を手放す」ような感覚を伴うのです。
だから、やめにくい。
4.エスカレーション・オブ・コミットメント ― 一度決めた道を、後戻りできなくなる
四つ目は、組織行動学者バリー・ストーが1976年に提唱した
「エスカレーション・オブ・コミットメント(
一度、ある方針にコミット(関与)してしまうと、
たとえその方針がうまくいっていないという証拠が出てきても、
人はかえってその方針への関与を強めてしまう、という現象。
「ここまでやったのだから、今さら引けない」という心理は、
個人だけでなく組織全体にも起こります。
ストーのその後の研究では、
自分自身がその意思決定に責任を負っている場合ほど、
この傾向が強くなることも示されています。
だからこそ、経営者自身が始めたことほど、
5.では、どうすればいいのか?
ここまで紹介した4つは、いずれも
人間なら誰にでも起こりうる、ごく自然な脳の働きです。
意志が弱いから起こるのではなく、
脳の仕組みそのものが、そうさせているのです。
ある意味、仕方ないのです。
だからこそ、対策は「気合いで克服する」ことではありません。
ルールや仕組みで対応することですね。
私がこれらの「やめられない」軛から逃れるために
意識していることをいくつか挙げます。
一つは、意思決定をする際に
「これまでいくら使ったか」を一切見ないこと。
見たら、心が引っ張られます。
「これから先、続ける価値があるか」だけで判断する場を、
意図的につくるようにすることです。
今年、この考え方でいくつか思い切って断捨離しました。
一つは、その事業や制度に一切関わってこなかった人
(=過去の投資に責任を負っていない外部の視点)に、
あえて評価してもらうこと。
当事者ほどやめにくいからこそ、これは有効です。
最近、第三者的なコーチに「要らないと思いますよ」
と言われ、一つ辞めました。
一つは、始める前に「この基準を下回ったらやめる」
という撤退ラインを、感情的にならずに決められる”平時”
独立起業する時、「3年で〇〇まで行かなければ、
就職活動する」と妻に約束しました。
結果的に、今も続けられていますが。
勿論、いつでもそれが出来ているとは
私も全然言えません。
ですが、知っていることで、少しは出来るようになります。
辞められる時もあります。
大事なのは、その仕組みを知った上で、
あらかじめ手を打っておくことなのだと思います。
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