停まった電車で学んだ、相手が不安にならない「3点セット」

チームSKM 佐々木千博です。


先日、電車に乗っていたときのことです。

「線路内に自動車が立ち往生した」という理由で、
電車が止まってしまいました。

正直に言えば、いつもなら少しイライラする場面です。
予定は狂うし、いつ動くかも分からない。
ところがその日は、不思議とストレスなく立っていられました。

 

理由は、ナイスな車掌さん。

はっきりとした、聞き取りやすい口調で、
こんな内容を適時に繰り返し伝えてくれたのです。
私はその場で、社内スピーチのメモを取りました。


スマホメモなので、正確ではありませんが、
こんなメモが残っています。
(今、思えば録音しておけば良かったかもですね)

> 前の駅で電車が止まっています。

> 塚本駅に待機します。事情は分かり次第、お伝えします。(駅待機はありがたい)

> 立花駅・甲子園口駅間の踏切で車が立ち往生して緊急ボタンが押されました。…

> 冷房のため、ドアを手動モードにして一度閉めます。
 ドアの近くのボタンを押して開閉ください。

> (新しい情報)立ち往生していた車は出られました。

> 最終確認中です。

> 確認が取れ次第、運転を再開します。

> ただ、この電車はもう少しかかりそうです。

> 分かり次第お伝えしますので、しばしお待ちください。

> (最新情報)運転を再開しました。
 前の電車がたくさん止まっています。順番になります。

> 再開します。一度ドアを開けます。近くの方はご注意ください。


結局、二十分以上は止まっていたと思います。
でも、体感はずっと短いものでした。

 

■車掌さんの言葉を分解してみる

あとから見返して気づいたのですが、この車掌さんのアナウンスには、
毎回きちんと三つの要素が揃っていました。

 

(1)事実「前の駅で電車が止まっています」「立ち往生した車は出られました」

(2)見通し「分かり次第お伝えします」「この電車はもう少しかかりそうです」

(3)相手への依頼「ドアの近くのボタンを押して開閉ください。」「近くの方はご注意ください」

 

この三つが、毎回セットで出てくる。
私はこれを勝手に「3点セット」と呼ぶようになりました。

 

そして、上手くないクレーム対応などを思い返してみると、
たいていどれかが欠けているのです。

 

(1)だけ。つまり事実の報告に終始して、この先どうなるかを言わない。

つまり(2)が「善処します」「鋭意対応中です」で濁されている。

そして意外と抜け落ちるのが(3)です。
聞いた人が、『で、自分は何をすればいいの?』が渡されていない
依頼がいい加減や曖昧なことが多い。


■私自身の、苦い失敗

これは、他人事として書いているのではありません。


新人だった頃、私はトラブル対応で、まさにこの失敗をやっていました。


状況報告はしていたつもりでした。

「こういう不具合が起きています」
「原因を調査中です」

事実は伝えている。しかし見通し不明の不安を抱かせ、
お客様も『で、私にどうしろと??』となっていた。

 

そして情報の空白を、憶測が埋めていきました。

「もっとひどいらしい」「あそこの責任らしい」。
火消しをするはずの私が、別の火種を作っていたのです。

 

トラブルそのものより、収束しないことのほうがずっとこたえました。

 

■星野リゾートが、危機のときに出した情報

同じことを、はるかに高い次元でやってのけた企業があります。


コロナ禍の星野リゾートです。


星野佳路代表は2020年4月の時点で、全社員に「18カ月計画」
というビジョンを打ち出し、新しいKPIとあわせて、自社の「倒産確率」を共有しました。

5月時点の数字は38.5%。

予約状況や財務状況などの変数から星野代表自身が算出したもので
社内ブログで発信され続けました。

 

倒産確率を社員に見せる。普通なら、不安を煽ると考えます。

 

しかし星野代表の言葉はこうです。

> 大丈夫だと嘘をついても社員は見破ります。

 

ここに(1)事実があります。
そして「18カ月」という(2)見通しがあり、
新しいKPIという(3)各自がとるべき行動があった。

3点セットが、経営レベルで揃っているのです。


しかも星野代表は、こうも語っています。

> コミュニケーションで心掛けているのはユーモアがあることです。

 

倒産確率という数理モデルも「1つのお遊び」だと表現し、
深刻に捉えても暗くなるばかりだから、ユーモアを持って
楽しく乗り越えようというコンセプトで社内発信をしていた、と。


不安を抑えたのは、情報を隠したからではありません。
開示と、見通しと、打ち手を、同時に渡したからでした。

 

■やってみましょう!

難しい話ではないのです。語彙力でも、話術でもない。構造の問題

社内メールを送る前、朝会で話す前に、指を三本折ってみてください。

 

事実:今、何が起きているか(分かっていないことは「分かっていない」と言う)

見通し:いつ、次に伝えるか(結果を約束できなくても、伝える行為は約束できる)

依頼:聞いた人に、何をしてほしいか

 

進捗がゼロの時こそ、この3点セットは効きます。
「今週は進展がありません。次回は◯日にご報告します。それまでは通常業務でお願いします」
この状況は決して良くはないのですが、これだけで、空白は埋まります。


あの車掌さんは、一度も「大丈夫です」とは言いませんでした。
言ったのは、「分かり次第、お伝えします」。


その約束を守り続けてくれたから、
私は安心して立っていられたのだと思います。

 

さて、お尋ねしたいことがあります。

見通しが立たない時、トラブル時、あなたはどんなコミュニケーションをしていますか?
状況を伝える機会や、一本のメールを送れるとしたら、何と書きますか。

トラブル時の三点セット、ぜひ試してみてください。

※別途、ティーチング三点セットもあります。またの機会に。

 

※星野リゾートの出典

・ダイヤモンド・オンライン「星野リゾート代表が明かす!『全スタッフ経営思考』と次世代KPIの底力」
https://diamond.jp/articles/-/259811

・ITmedia ビジネスオンライン「星野リゾート星野佳路代表が“倒産確率”を公表した理由」(2020年11月13日)
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2011/13/news010.html

・アトラシアン「チームの教科書」星野佳路代表インタビュー(2021年4月)
https://atlassian-teambook.jp/_ct/17438162

・RadiChubu「星野リゾート代表が『倒産確率』を社員に公表する理由」
https://radichubu.jp/kikeba/contents/id=36835


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