なぜ「数字を追う会社」ほど、数字が逃げていくのか
チームSKM 佐々木千博です。
先日、大阪弁護士会様で「ビジネスと人権」に
関する基調講演およびパネルディスカッションの
コーディネーターを担当させていただきました。
「中小企業経営における人権と業績向上」
というテーマでお話しする機会をいただきました。
「ビジネスと人権」。
こう聞くと、
「うちはそんな大企業じゃないし……」
「人権侵害なんて、うちには関係ない」
「コンプライアンスの話でしょう?」
そう感じる経営者もいらっしゃると思います。
でも私は、このテーマを考えれば考えるほど、
これは決して、「法律を守りましょう」だけの話ではない。
むしろ、
「人が力を発揮する会社とは、どんな会社なのか?」
という、
■数字を変えたい。では、どこから変えるのか?
業績が厳しくなれば、当然、経営者は数字を見ます。
「もっと売上を上げよう」
「粗利を改善しよう」
「生産性を上げよう」
「目標を必達しよう」
どれも間違っていません。
私は経営の厳しい再生企業の立て直し支援も、
超優良中小企業もどちらも関わってきました。
その中で気づいたことの一つは、
問題は、その“順番”です。
数字が悪い。
↓
管理を強化する。
↓
行動を細かくチェックする。
↓
社員が失敗を恐れる。
↓
提案した者が損する構図になる
↓
挑戦しなくなる。
↓
さらに数字が悪くなる。
こんな循環に入ってしまう会社があります。
現場から聞こえてくるのは、
「社長は数字にしか興味がない」
「何を言っても否定される」
「提案したら、丸投げされるだけ」
「提案した人が貧乏くじを引く」
「責められたくないから余計なことはしない」
という言葉です。
一方で、元気な会社では、
「社長は私達のことみてくれている」
「私に何ができるだろう?」
「任せてもらえる」
「どうすればもっと良くなるだろう?」
「困ったときに相談できる」
「この会社に貢献したい」
という言葉が聞こえてきます。
たとえば、「丸投げ」と「任せてもらえる」。
これは事象としては同じです。
しかし、ニュアンスは全然違うし、本人の意欲は段違いです。
この違いは、どこから生まれるのでしょうか。
■結果の前にあるもの
研修では「組織の成功循環モデル」を使って説明しました。
人間関係の質(組織風土に近い)が変わる。
すると、思考の質が変わる。
思考が変われば、行動が変わる。
行動が変わり続けた結果として、
業績という「結果の質」が変わっていく。
もちろん、数字の管理は必要です。
しかし、
「数字を変えたいから、数字だけを管理する」
ことには限界があります。
社員が、
「自分は大切にされている」
「ここでは安心して意見を言える」
「自分たちの仕事には意味がある」
と思えているか。
経営者が普段どんな言葉を使い、
誰の話を聞き、
何を評価し、
何を意思決定の基準にしているか。
そうした日常の積み重ねが、
最終的には数字にも現れてくるのだと思います。
■長坂養蜂場さんから考える
今回、事例としてご紹介したのが、
浜松市三ヶ日町の長坂養蜂場さんです。
今回もパネルディスカッションに参加頂きました。
私は毎年、同社と
「人が輝き高収益を実現する理念浸透と風土づくり公開ツアー」
長坂養蜂場さんを訪問すると、
まず印象に残るのは制度ではありません。
「社員が明るい」「笑顔が温かい」「ぬくもりを感じる」
これです。
もちろん、単に仲良しの会社という意味ではありません。
理念があり、
仕事の意味が共有され、
お客様や取引先、地域との関係を大切にする考え方が、
日々の行動にまで落とし込まれている。
「SDGsだからやる」
「国連のビジネスと人権に関する指導原則に書いてあるからやる」
ではありません。
根底にあるのは、
「感謝・報恩・三方よし」。
自分たちは誰のおかげで商売ができているのか。
その問いから、
お客様、社員、取引先、地域との関係を考えているのです。
しかも同社では、
営業時間の短縮や休暇の充実などを進めながら、
理念浸透から一貫して事業を成長させ続けてきました。
人を大切にすることと、
稼ぐことを対立させていないのです。
■「人権」を経営の言葉に翻訳する
国連「ビジネスと人権に関する指導原則」は、
企業に人権を尊重する責任があることを示しています。
ただ、中小企業の社長にとって大切なのは、
難しい言葉を覚えることではないと思っています。
もっと身近な問いに翻訳すると、
「社員が声を上げられる会社になっているか?」
「取引先や地域を知ろうと対話しているか?」
「取引先や地域の立場になって、仕事をしているか?」
「立場の弱い人に、しわ寄せがいっていないか?」
「問題が起きたとき相談できる場所があるか?」
「利益を出すために、誰かの尊厳を犠牲にしていないか?」
という問いではないでしょうか。
そして、ここで一つ注意したいことがあります。
「いい会社にしよう」
逆に、相談窓口や規程など、
制度だけを整えても十分ではありません。
理念があり、
対話があり、
経営者の意思決定があり、
それを支える仕組みがある。
この両輪が必要です。
台湾・満州・日本の近代化に大きな足跡を残した
後藤新平さんは晩年、
「財を残すは下、
事業を残すは中、
人を残すは上なり」
という言葉を残したとされています。
しかし、その後には、
「財なくんば、事業成り立たず、事業なくんば、人育ち難し」
と続きます。
私はこの言葉が好きです。
人を大切にするためにも、
会社は稼がなければならない。
しかし、何のために稼ぐのかを忘れてはいけない。
財のために人がいるのではなく、
事業のためだけに人がいるのでもない。
人が育ち、人が輝き、
その力によって事業が強くなり、
さらに人に投資できる会社になる。
そんな循環をつくること。
「ビジネスと人権」というテーマの先にあるのは、
実はそんな経営なのではないか。
今回の基調講演への登壇を通じて、
改めてそう感じました。
さて、あなたの会社では今、
「数字を変えること」と
「人が力を発揮できる環境をつくること」。
どちらから先に手をつけているでしょうか。
もしかすると、
この問いの「順番」の中に、
次の成長へのヒントがあるかもしれません。
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