人はなぜ叱れないのか?

ほめる(ポジティブフィードバック)と同様に
必要な叱る(改善フィードバック)について
連載的にお伝えしています。


~~~叱る(改善フィードバック)シリーズここまでの内容~~

・4ほめ1叱りの法則(承認・賞賛先行)
・叱るは関心の表明
・改善フィードバックがない組織は、
 キャリア不安からホワイト離職が生まれるリスクがある

~~~ ここまで ~~~

叱ることも大事だと思うけれど、
叱ることが嫌だ、怖い、避けてしまう・・・

そういう方も多いのではないでしょうか?


それで終わらせると、改善できないので、
どのような原因が考えられるのか?を
プロスペクト理論から考えてみたいと思います。

この理論は、自己理解・他者理解に大きな
ヒントを与えてくれると思っています。


■プロスペクト理論

ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキー
によって提唱された有名な意思決定理論。
以下のような傾向が人にはあるというものです。

1. 人々は利得よりも損失に敏感で過大評価しがち(損失回避)

2. 確実な結果を、不確実な結果よりも重視(確実性効果)

3. 基準点(参照点)からの変化で価値を判断する(参照点依存性)

これらの特徴は、意思決定が必ずしも合理的でない場合
がよくあることが説明できます。


■「叱る」に当てはめると

上記の3つの特徴を、「叱る」ことを避ける行動に
関連付けて考えてみたいと思います。

1. 損失回避

叱ることで、即時的な損失(部下との関係悪化、
職場の雰囲気悪化)が容易にイメージできます。
これは、叱らないことによる将来的な利得
(部下の成長、組織の改善)よりも重視される
傾向が強くなりがちと言えます。


2.確実性効果

叱らないことの結果(現状維持)は確実であるのに対し、
叱ることの効果(直近の関係悪化、将来的な成長等)
は不確実です。
現状維持(叱らない・何もしない)の方が選びやすいのです。


3. 参照点依存性

現在の部下との関係を参照点(基準)にすると、
叱ることで、この関係を悪化することは「損失」
として認識されます。この損失を避けようとすると、
叱ることから逃げることになります。



では、どうすれば、必要な時に叱ることができるか?

プロスペクト理論のいう特性があることを
認識しながら、正しく「叱る」損失と利得を
把握することが大切ですね。(適切に叱る前提です)


■叱る短期的なデメリット・マイナス感情

  一時的な人間関係の悪化
  一時的にチームのムードが低下
  嫌なヤツと思われたくない(いい人と思われたい)
  相手の凹む顔をみたくない
  パワハラと言われるかもしれない
  叱ること自体が時間を取られ負荷も掛かる
  自分も気持ち的に心地よくない

■叱る長期的なメリット

  相手が成長する
  チームが成長する
  チームの生産性や成果がアップ
  適切に叱ることで、表面的でない信頼関係
  叱るべきことは叱る育成文化が伝承される 

■叱らない長期的なデメリット

  仲良しの仮面を被ったぬるま湯、傷のなめ合い組織になる
  問題が放置され、大きな問題に発展する
  叱らないことで、他の人に迷惑が拡大する


一例として書いてみましたが、
ぼんやりと気分や感情に支配されるのでなく、
こうやって言語化・外在化すると、
叱るべき時に叱ることは、必要だと認識できるはずです。


これは一例なので、
「叱れない」「叱らない」自分なりの感情や理由を
書き出してみると非常によいと思います。


また逆に、「叱る」ことで得られるメリットや
デメリットを書き出してみるといいと思います。