Jリーグ問題に見る「正当性」と対話の再構築

チームSKM 吉田です。

<サッカー少年が見た「Jリーグ」という夢の始まり>

私はサッカー少年でした。
サッカー選手を夢見ていた時期があり、
毎週欠かさず岡野俊一郎さん解説の
サッカー番組を見ては世界の名選手に
胸をときめかせていました。

ベッケンバウアーやゲルト・ミュラー、
ヨハンクライフに憧れていた私にとって、
1993年のJリーグ開幕は、
まさに「夢が現実になった瞬間」でした。

実際にスタジアムへ足を運び、
日本に新しいプロスポーツ文化が
根づいていく予感を肌で感じた体験は、
今も鮮明です。

当時のJリーグは単なる競技団体ではなく、
日本社会に新しい価値観を持ち込む
「高い志」の象徴でした。


<川淵チェアマンが築いた「理念」の功績>

この巨大プロジェクトを牽引したのが、
初代チェアマン・川淵三郎氏です。

彼の功績はJリーグにとどまらず、
後のバスケットのBリーグ誕生にも
影響を与えました。

Jリーグは創設以来、極めて高い志と
明確な理念を掲げてきました。

・日本サッカーの水準向上及び
 サッカーの普及促進

・豊かなスポーツの文化の振興及び
 国民の健全な発達への寄与

・国際社会における交流及び
 親善への貢献


川淵氏の理念の根底には、欧州視察で体感した
「クラブは地域の誇りであり、共有財産である」
という哲学があります。

自律的な組織:企業スポーツの限界を超え、
        クラブが自ら稼ぎ、責任を持つ

スポーツは文化:芝生の広場に人が集い、
         地域コミュニティが再生される

この理念があったからこそ、
日本サッカーは競技レベルだけでなく、
社会的存在としても進化してきました。


<秋田市の問題に見る、理念が刃になる瞬間>

しかし今回のブラウブリッツ秋田を巡る議論を見て、
私はある危うさを感じました。

本来人を鼓舞するはずの「理念」が、
いつの間にか人を傷つける言葉に変わる
場合があるからです。

問題となったのは、スタジアム整備計画に対して
「将来の拡張性を考えると、志が低いのではないか」
という趣旨の発言があったとされる点です。

Jリーグ側は、昇格や収支計画の持続性を
懸念した文脈だったと説明していますが、
この言葉は地元自治体や関係者に
大きな反発を生みました。


<なぜ「志の否定」は反発を生むのか>

組織論の視点で見ると、
「志」や「理念」は一種の聖域です。

人格や存在の否定に聞こえる
    「志が低い」と評価されることは、
    地域が積み上げてきた努力そのものを
    否定された感覚を生みます。

現実条件の軽視
   人口減少、財政制約、人材不足。
 地方には地方の現状があります。

理念が正論として上から降りてくると、
現場では「おごり」や「ごり押し」と
受け止められてしまう。

これはスポーツ界に限らず、企業経営や
組織マネジメントでも、起こる構図です。


<理念の「摩耗」と、正当性の罠>

Jリーグのスタジアム基準や
クラブライセンス制度には、
世界基準という正当性があります。

しかし、どんなに高尚な理念も、
現場に降りた瞬間から
現実とのギャップによって
摩耗が始まります。

今のJリーグに欠けているのは、
次の3点ではないでしょうか。

(1)自分ごと化の不足
   理念が「リーグのルール」にとどまり、
   地域の物語になりきれていない。

(2)対話の欠如
   正しい基準を示すことが目的化し、
   制約を共有し乗り越える対話が不足している。

(3)静かなる実行者への敬意
   派手なビジョンだけが志ではない。
   地道に地域を支える現場の努力を、
   どれだけ尊重できているか。


<まとめ:理念を「生きた文化」にするために>

Jリーグが「地域の公共財」であり続けるために
必要なのは、基準の厳格化だけではありません。

今こそ求められているのは、
「対話の仕組み・デザイン」の再構築です。

理念は掲げるものではなく、育てるもの。
現場の痛みや葛藤に耳を傾け、
共に「自分たちの志」を言葉にしていく
プロセスがあってこそ、
それは生きた文化になります。

こうした「理念と現場の対話」は、
さんよし会においても
経営者の方々との対話で
繰り返し向き合ってきたテーマでもあります。

少年時代に夢見たJリーグが、
地域を置き去りにした巨大な権威ではなく、
再び人々が誇りを持って集える
「地域コミュニティ」であり続けることを、
願いたいものです。


<補足>

本稿では、政治的・財政的要因には踏み込まず、
「組織と理念はどう向き合うべきか」という
本質に焦点を当てました。


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